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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)14483号 判決 1970年9月02日

原告 ブルーバス株式会社

右代表者代表取締役 大河原保

右訴訟代理人弁護士 千葉宗八

同 早瀬真

被告 上村かよ

右訴訟代理人弁護士 辻村精一郎

主文

被告は東京都江戸川区西小松川一丁目二九三七番地訴外山田川浩治に対し別紙目録記載の各建物につき所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、原告は主位的請求として主文同旨の判決を求め、予備的請求として、「東京都江戸川区西小松川一丁目二九三七番地訴外山田川浩治と被告間に別紙目録記載の各土地につき昭和四三年四月二六日付をもってなされた財産分与はこれを取消す。被告は右各土地につき右山田川に対し所有権移転登記手続をせよ。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

(一)  原告は観光旅客の運送等を業とする会社であるが、昭和四二年一二月二七日当時訴外東京ナショナル観光株式会社(以下単にナショナル観光という)に対し旅客運送代金債権金三八三万二三九〇円を有していたところ、右同日右債権を消費貸借の目的としてナショナル観光と準消費貸借契約を締結し、訴外山田川浩治および同中島巌は右準消費貸借上の債務を連帯保証し、原告とナショナル観光訴外山田川および同中島との間において要旨次のとおりの強制執行認諾の条項のある公正証書が作成せられた。

1  元金を昭和四三年一月以降同年六月迄毎月末日限り金一〇万円宛支払い、同年七月末日に残金三二二万二三九〇円を支払う。

2  利息なし

3  弁済遅滞の場合は、昭和四三年九月末日以降完済に至るまで日歩金二銭二厘の割合による遅延損害金を支払う。

4  本契約上の支払は、すべて現金を原告の営業所又はその指定場所に持参提供する。

5  ナショナル観光において左記各号の一つに当る事由があったときは、通知催告なくしてナショナル観光は弁済期限の利益を失い弁済金全部を直ちに弁済すること

(1) 元金の分割弁済を一回遅滞したとき

(2) 手形小切手の不渡処分を受けたとき(その他の喪失事由は省略)

6  中島巌および山田川浩治は本件債務を保証し、ナショナル観光と連帯して履行の責に任ずる。

7  昭和四三年七月末日1記載の残金三二二万二三九〇円を完済できないときは原告およびナショナル観光はその支払について協議するものとする。右の協議が調わないときは右残金の最終支払日を昭和四三年一二月末日とする。

8  ナショナル観光は原告に対し物上担保を差入れることによって原告は山田川との連帯保証人の契約を解くものとする。

(二)  しかるところ、ナショナル観光は昭和四三年二月五日に同年一月末日支払分金一〇万円を支払ったのみでその余の割賦金の支払をしない。そして右割賦金支払のため七通の約束手形が提出されていたが、同年二月末日支払分手形が取引停止解約後の理由で支払拒絶された。

(三)  しかるに、訴外山田川浩治は昭和四三年四月二五日届出受理をもって被告と協議離婚し、その所有に係る別紙目録記載(一)(二)の建物(以下本件(一)(二)の建物という)同月二六日財産分与により被告に譲渡し、本件(一)の建物につき東京法務局江戸川主張所同年四月二七日受付第一五七三五号をもって、本件(二)の建物につき右同出張所同年五月一七日受付第一八三〇号をもってそれぞれ所有権移転登記手続をした。

(四)  しかしながら、右協議離婚および財産分与は強制執行を免れるため右山田川および被告が通謀してなした虚偽表示であり、しからずとしても右財産分与は右山田川および被告において原告を害する目的をもってなしたものである。このことは次の事情に徴し明白である。

1  右離婚が協議離婚である。

2  右離婚および財産分与は前記公正証書作成後であり、かつ、ナショナル観光が銀行取引停止処分後になされている。

3  山田川は本件(一)の建物において理髪業を営む傍ら観光旅客の斡旋取次を業とするナショナル観光に取締役として関与していたものであるが、ナショナル観光が倒産するや昭和四三年三月一八日ナショナル観光と同様の業務を目的とする別会社睦観光興業株式会社(以下睦観光という)を創立してその代表取締役に就任し、次いで同年同月三〇日ナショナル観光の取締役を辞任している。そして、旧会社の債務の整理弁済等を放棄して責任を回避し別途新会社による営業活動をしている。

4  右山田川は昭和四三年五月一七日新会社睦観光の江戸川信用金庫に対する債務金六〇万円担保のため被告をして根抵当権設定登記・停止条件付賃借権設定仮登記・所有権移転請求権の仮登記をなさしめている。

5  被告の本籍地は離婚の前後を通じて同一であり、離婚後も被告と山田川とは同居している。

6  山田川には本件(一)(二)の建物以外にこれといった財産はない。

(五)  よって右財産分与は通謀虚偽表示として無効であるから、原告は債権者として右山田川に代位し、被告に対し、本件(一)(二)の建物につき山田川のため所有権移転登記手続をすることを求め、右無効であるとの主張が認められないときは、予備的に詐害行為として右財産分与を取消し本件(一)(二)の建物につき山田川のため所有権移転登記をすることを求める。

二、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、請求原因(一)(二)の事実は不知、同(三)の事実は認める、同(四)の事実中、1、4、の事実および訴外山田川がナショナル観光に関係していたことがあり、原告主張の頃睦観光興業株式会社を設立したことは認めるもその余の事実は争う、と述べた。

三、立証≪省略≫

理由

一、訴外山田川浩治が昭和四三年四月二五日届出受理をもって被告と協議離婚し、被告に対し同月二六日財産分与名義をもって本件(一)(二)の建物につき原告主張のとおり所有権移転登記手続をしたことは当事者間に争いがない。

しかるところ、原告は、まず右協議離婚および財産分与はいずれも原告からの強制執行を免れるため右山田川と被告とが通謀、仮装してなした虚偽の表示で無効のものである、というので、次にこの点の判断をする。

(一)  ≪証拠省略≫によれば、原告がナショナル観光および訴外山田川浩治、同中島巌と昭和四二年一二月二七日原告主張の要旨をもって強制執行認諾条項ある公正証書を作成し、ナショナル観光に対する原告主張の債権を目的とする準消費貸借契約を締結し、訴外山田川浩治は同中島巌とともに右ナショナル観光の債務を連帯保証した事実を認めることができ、また≪証拠省略≫によれば、ナショナル観光は割賦支払を約した右準消費貸借債務のうち昭和四三年一月末日に支払うべき第一回割賦金を支払ったのみで(右各割賦金支払のために振出された約束手形のうち同年二月末日を満期とする約束手形については取引停止解約後の理由で支払拒絶せられた)以後残債務の支払をしないことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(二)  ≪証拠省略≫によると、

被告と訴外山田川浩治とは昭和二八年一一月一〇日届出により婚姻し、江戸川区西小松川一丁目二九三七番地にあって裏表となっている二棟の建物で、同居し、表の方の一棟を店舗に改造し、被告が右店舗で理髪業を経営してきた。そして、前述のとおり協議離婚の届出をなし、被告は復氏したのであるが、離婚後の本籍として婚姻中の本籍と同一地番に定め、住民票上の記載も世帯主(山田川浩治)と被告との続柄、被告の本籍が改められたにとどまったのであって、右協議離婚届出をするに至った動機は右山田川が前記ナショナル観光のために原告に対し連帯保証したことを被告が知り、原告のために財産をとられたくないということにあり、財産確保を目的としたほか他に格別の理由がなかったことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(三)  そして≪証拠省略≫によれば、訴外山田川浩治は昭和四三年三月一八日睦観光を創立して代表取締役となったのであるが、昭和四三年五月一六日被告は本件(一)の建物につき睦観光の江戸川信用金庫に対する昭和四三年五月一六日証書貸付手形割引手形貸付契約に基く債務元本極度額金六〇万円につき根抵当権を設定し、さらに同年一一月一日本件(二)の建物につき前同様右会社の江戸川信用金庫に対する同日付証書貸付手形割引契約に基く債務元本極度額金一四〇万円につき根抵当権を設定し、それぞれその旨の登記手続がなされていることが認められる。≪証拠判断省略≫

(四)  被告と訴外山田川浩治との関係は協議離婚届出の前後を通じ格別の変化のあったことを認めるに足る証拠はない(≪証拠判断省略≫)ので、変化はないものといわざるを得ない。

(五)  以上認定の諸事実を綜合すれば、被告と山田川浩治とは戸籍上はともかく婚姻の実質関係を解消する意思をもって協議離婚届をしたものではなく、本件(一)(二)の建物につき原告から強制執行を受けることを免れ、もって財産を確保すべく、法律上の婚姻関係のみを解消し(かかる協議離婚も直ちに無効とすべきではない)財産分与を仮装してもって本件(一)(二)の建物を被告に対し所有権移転登記手続をしたものとみるべきである。

二、しからば、右財産分与は無効であるから、被告は右山田川に対し、本件(一)(二)の建物につき真正な登記名義の回復として所有権移転登記手続をなすべき義務あるものというべきところ、右山田川に他に資産あることの主張立証はないから、原告が右山田川に対し債権者として代位し、右移転登記手続を求める原告の本訴主たる請求は理由あるをもって、正当として認容し、民事訴訟法第八九条により主文のとおり判決する。

(裁判官 綿引末男)

<以下省略>

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